読売新聞の記事について…

8月25日の読売新聞に水中考古学について記事が載っていた。オンラインではごく簡単に触れているだけだが、実際の新聞記事はもう少し掘り下げて書かれていた。

内容であるが、基本的には今までのニュース記事と同じである。近年、長崎県鷹島で発見された元寇の沈没船が話題を呼び、注目を集める水中考古学。日本には知られている水中遺跡は500件ほど。だが、世界の水中遺跡のマネージメントに比べ日本は遅れている。特に国として方針があるわけではない。しかし、水中での発掘には莫大な費用が掛かるので国としての対策が必要だと…

特に新しいことは書かれていないが、水中考古学を知らなかった人にとっては面白い記事だろう。ある一点を除いて特に間違った情報もなく、この学問に好意をもって書かれているようだ。さて、その間違い(?)だが、水中での発掘は陸の発掘より10倍の費用が掛かるというくだり。

何をもって10倍としているのか不明である。遺跡の範囲のことだろうか?水中遺跡の特色、果たしては考古学という学問の特徴を全く理解していない全く見当はずれな意見に思える。もちろん、このような考えが未だに存在しているのは、我々水中考古学者がしっかりと情報を伝えきれていないという側面もある。そのため、このブログを持って少しでも役に立てたらと考えている。

水中遺跡は有機物の保存状態が良いので、陸上の遺跡からは普通には発見できない遺物が多く見つかる。陸上の遺跡をいくら掘っても発見できないような遺物も水中には眠っている可能性もある。また、沈没船などは一括性の遺物・遺跡であり、その当時の時代をそのまま映し出す存在であり、歴史的・考古学的に研究価値のあるものである。例えば、古代の沈没船で三角縁神獣鏡を運んでいた船が見つかったとしよう。この遺跡の範囲は大きくはないだろうが、計り知れない歴史的価値があろう。

しかし、これは、あくまで発掘をするとなった場合の話である。現在、世界では水中遺跡は発掘をしないで現地保存が基本となるつつある。ユネスコも現地保存を第一オプションとすることを薦めている。また、水中考古学マニュアルの類には、水中での発掘方法はほとんど触れていない。逆に、開発などでやむを得ない場合にのみおいて行う行為であり慎むべきであると書かれている。

水中遺跡も陸上と同じように開発との共存の道を取る。つまりは、開発などをおこなう原因者(工事会社など)が発掘の費用を負担する。陸と全く同じ考えだ。世界では、特に陸と水中の遺跡を区別していない国が多くなっている。ちなみに、日本の法律には水中遺跡について言及されていない、世界的に珍しい国である(他のアジアで水中遺跡についての法律がない国はモンゴルと北朝鮮)。工事会社は、もちろん発掘に費用をかけたくない…つまり、工事建設予定地に水中遺跡があった場合はその場所を避けて工事をする、新しい建設プランを建てる。

欧米などでは水中遺跡のありそうな場所や、今までの工事や他の産業から得られたデータを集約し、水中遺跡のデータベースを作成している。このデータベースは国や地方自治体が管理していることが多い。海の上に建設を行いたい会社はこのデータを基に、水中遺跡がなさそうな場所に工事をする。もちろん、工事の前には事前審査(サーヴェイ)を行う。アメリカ・メキシコ湾では油田のパイプラインに伴う工事で2000件以上の水中遺跡が発見・登録されている。音波探査機など水中を見ることができる機器はここ数年飛躍的に進化し、値段も安くなっている。すでに、ソナーなどは個人で購入できる値段となっている。

基本的には、陸と水中の遺跡のマネージメントは変わらない国が多い。開発に伴う緊急発掘が現実で、その費用は工事会社の負担となる。ただし、水中の大きな違いは、建設のプランが比較的自由に変更できることにある。陸の場合、ビルを建てるとなるとその建設予定地を変えることは難しい。しかし、海の上はそれが容易だ。事前審査をしっかり行って水中遺跡を壊さない場所に施設を移動することに建設会社にとって大きな負担とはならない。逆に、遺跡を破壊してしまった時のほうが会社のイメージダウンなどにつながる可能性もあり、それは避けたいことであろう。

少々長くなったが、結局一番書きたかったことは、水中遺跡のマネージメントはそれほどお金を必要としないということ。世界の水中考古学は、これらの開発を行う会社と共存をすることにある。そのシステムに国や地方自治体の協力が必要である。水中遺跡が発見された場合に、その価値を吟味し、そして、真に学術的価値の高い遺跡があった場合において発掘を行うのだ。

以上を考えると、ビルなどの開発のプランがあり、その範囲内に遺跡があったら発掘を行うことが当たり前となっている陸上の遺跡のほうが極端にお金がかかるように思える。開発のプランが提出されても、実際に発掘を行うことが少ない水中遺跡は効率が良いと考えられる。

水の上で開発を行う際にサーヴェイなどの義務化、水中遺跡のデータベース作成など、国や地方自治体ができることは充分ある。今、日本はようやくその道を模索し始めている。

 

 

 

 

 

 

引用元:http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140824-OYT1T50123.html

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