中国の水中文化遺産:新体制

4月1日から中国では、水中遺跡の保護体制が新しく生まれ変わります。そのことについて書きますが、他に諸々ご紹介させてください。

1.水中遺跡ハンドブックと日本の水中文化遺産保護体制について

2.中国の新体制について

3.おしらせ

この3本です。

 

1.水中遺跡ハンドブックと日本の水中文化遺産保護体制について

先日、日本の文化庁が『水中遺跡ハンドブック』を刊行し、地方自治体に対して積極的に水中遺跡に関与するよう勧めていることは、前回の記事でお伝えしました。ハンドブックでは、実用的な調査手法だけでなく、水中考古学の概要や歴史も学べる内容となっています。考古学者や自治体の担当者、学生、そして、海と関わる仕事に従事している人に読んでもらいたいです。

このハンドブックが出たことと、中国の新システムの導入、同じ時期にあたったことは、面白いなと。そんなわけで、多少まとまりのない記事になっているかもしれませんが、ご了承ください。

 

 

 

PDFのダウンロード!

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/93679701_01.pdf

前回の記事でもかいていますので、詳しくは、こちらでお読みください!

水中遺跡ハンドブック

 

このハンドブック、読んで欲しいのは、行政担当者だけではありません。SDGsの目標14や海洋問題に対して何らかの取り組みを行なっている企業や団体の幹部・役員はもちろんのこと、現場監督レベルで事業に携わる人々も読んでおかないと世界のスタンダードに追いつくことはできません。SDGsや海洋問題には、水中文化遺産の保護、海と人の関係の歴史を学ぶことの重要性、水中遺跡の積極的・持続的な活用が含まれていることは常識です。

ハンドブックは、日本の水中遺跡の保護体制を一気に前進・進化させる力を持っています。

多くの人が読んで、実践に移せば…という条件付きですが…。

他国に比べ半世紀遅れている日本の水中遺跡の取り組みですが、政府の対応であって個人の研究者や大学などではありませんので、ご理解を。また、自治体によっては、かなり先進的な取り組みをしているところもあります。水中遺跡に対する取り組みに点数をつけることが出来るのであれば、日本は95点の自治体・研究者がいる一方、その隣の自治体や大学は5~15点という状態にあります。世界的にも珍しい形かと思います。世界的に名の知れた研究者、ユネスコなどとパートナーとなっている東京海洋大学などがある一方、「水中考古学ってはじめて聞きました」という政治家・行政担当者がいます。良いたとえではないかもしれませんが…。

さて、文化庁がこのハンドブックを出したことで、一区切りついたわけですが、次のステップは何でしょう? 特に、これから国・政府はどのような取組をしていくべきでしょうか?いくつか参考となる国があるかと思いますが、一つの例として、中国を取り上げたいと思います。

なぜ?中国?ちょうど4月1日に、中国では新しい水中文化遺産保護のシステムが出来上がるため、それをここで紹介したいと思いますが、理由はそれだけではありません。

中国の文化財保護行政は、地方分権による登録制管理、開発に対しての事業者負担が基本です。強い国家のイメージがありますが、中国の文化財行政は、日本の行政を模範として作られました。そして、水中も、基本は地方が責任を持って遺跡の管理を担っています。つまり、中国の水中遺跡の成功例から日本が学ぶべきことは多いはずです。

「経済成長の波に水中文化遺産の保護を乗せることに失敗し遺跡破壊を続けた日本」「経済成長の波に上手に水中文化遺産の保護を乗せてなんとか遺跡保護を進める中国」の違いをみることができます。

日本は、水中遺跡の存在に気がつかずに、1万キロ以上の自然海岸を埋め立て、そこにあった水中遺跡も破壊してしまいました。ある意味、日本も経済が発展していた時期に、中国と同じ様に水中文化遺産の保護に「投資」をしていれば、状況は全く変わっていた事でしょう。今、中国の経済成長は終息に向かいつつあるようにも見えます。このタイミングで水中遺跡を保護する方法を確立させたことは、意義のあることだと思っています。経済の成長期に、一緒に波に乗って成長した中国の水中文化遺産保護は、完成した形になった、ともいえるのかもしれません。

ですが、過去のことをいくら語っても仕方がない。ハンドブックが出たことは、意義が大きく、これ以上遺跡を破壊しないぞ!という文化庁の意気込みを感じさせる内容です。日本の水中遺跡保護体制の新たな門出と捉えることが出来ます。

中国と日本、状況は全く変わってしまいましたが、時を同じくして新たな取り組みを示したこと、どちらも注目して見守りたいと思っています。

 

2.中国の新体制について

 

では、中国について。

最初に中国のこれまでの水中文化遺産保護の概要と詳細。そして、今回の新しい取り組みの解説をします。

 

概要

①これまでの中国では、1980年代に外国人による中国船の盗掘(トレジャーハンティング)を阻止するために法の整備ははじまりました。北京の博物館で水中遺跡を研究する機関が置かれました。

②しかし、2000年以降は、外国のトレジャーハンターは、ほとんど問題とならなくなります。ユネスコ水中文化遺産保護条約の躍進により、トレジャーハンターが急速に世界から悪者扱いを受けるようになりました。そうなると、法やプロトコルも変化します。保護の在り方を改変し、文物局に水下文化遺産保護中心が造られました。

③行政の中での文化遺産保護へと変わり、水下文化遺産保護中は、水中文化遺産の保護に関わる人材を育てること、そして、貴重な遺産が存在しているというアピールを続けてきました。そして、その取り組みの集大成が4月からの新体制となります。

 

詳細について

中国の水中文化遺産保護の初期は、外国のトレジャーハンター達を排除し、また、海外のマーケットで売られる中国の文化財をどのように守るかが課題でした。1980年代にインドネシアで発見・発掘されたVOCの船、ゲルダ―マルセン号の積み荷がオークションで売られ話題となりました。積み荷は大量の中国陶磁器類。中国は自国の文化財であると主張しましたが、国際法的に何もできませんでした。そのために国内の法整備を進めました。

ここは、ガッツリ割愛しますが、外国のトレジャーハンターがほぼいなくなります。国際的に水中文化遺産が重要であり、世界規模で守っていく価値のある遺産への認識の変化でした。

一つの問題が消えると、中国が直面していた別の問題も見えるようになります。それが、国内の小規模な遺跡破壊でした。漁師による盗掘。また、大きな問題は、開発による遺跡破壊でした。一応、日本と同じく遺跡があれば保護は出来るのですが、登録された遺跡の件数が少なかったので、実際に守れる遺跡は、あまり多くありませんでした。また、水中遺跡への関心も低く、地方には水中遺跡をマネージメントする力もありませんでした。多くの水中遺跡が破壊の危機にありますが、すべての水中遺跡を守るための十分な予算、そして、何よりも、貴重な遺跡であるという国民の理解、さらには、重要であると国民に示し納得させるための十分な成果がありませんでした。

そこで、人材育成を通して保護体制の強化が行われてきました。水下文化遺産保護中心は、地方へのアドバイス、保存処理のサポート、そして、人材の育成(地方職員の研修・トレーニングプログラム)を着実に実施してきました。数年前、すでに100名近くのトレーニングを実施したと聞きました。多くは、地方の文化財行政職員です。特に90年代ごろまでは、積極的に外国の専門家を招いてトレーニングプロフラムを作り上げました。現在は、独自のプログラムを作り上げ、ケニアなど海外の水中考古学者のトレーニングプログラムとして、「輸出」するほどです。

南海1号など宋時代の沈船の発掘が大々的に取り上げられると、中国国内でも水中遺跡に対する認識が変わりました。ちなみに、船を丸ごと引き揚げて博物館に移して発掘を行うプロジェクト、多くの人がニュースなどで目にしたかと思います。陶磁器や鉄のインゴットなどを東南アジアに運ぶ途中に沈んだ船です。この調査、その規模から、多くの人が「国・中央の財力があったからこそ可能」だったプロジェクトと思われがちですが、主体は地方でした。

南海1号の動画

このほか、いくつか発掘の成功例を示した中国は、法とプロトコルの大幅な変革を試みます。それが、4月1日からの新しい体制です。しかし、大きな変化に見られますが、これまで積み重ねた努力が形となった、と私は見ています。

 

新体制について

4月1日からの新体制について…

 

 

水中文化遺産とは何か…そして、国外にある遺物についても言及しています。

他国の領域については言及していないものの、EEZや公海で発見された中国に起源をもつ遺物の保護が可能。

 

水中遺跡の保護地区が設定できること、また、大規模工事の際には調査が行われます。地方に権限が与えられています。水中文化遺産の保護は、中国人民の義務。水中文化遺産は国の宝であり、明確なガイドラインを示したことが評価されます。調査を行う主体、ガイドラインなどを示しています。

これにより、遺物売買を目的とした発掘を排除、政府の基準に沿った学術・調査のみ可能

 

盗掘・漁師による小規模な遺跡の破戒行為も罰せられることになったようです。水中で遺物を発見した場合、指定時間内に報告しないと罰金。これは、おそらく外国籍の人にも適応されるのだと思います。

盗掘が出来なくなりますね。観光で訪れて、何か見つけても報告しないと、ヤバいことになりそうですね。

 

なかなか難しいことが書いてあります…。そこで、かみ砕いて説明している記事がありましたので、それをベースに解説いたします。

もとの記事はこちら!

 

英語の抜粋を翻訳します。

 

Archaeological excavations must now also be conducted before the construction of any underwater infrastructure, and for the first time, this has legal support and detailed protocols.

訳しますと…

すべての水中の工事・開発事業に際して、事前に水中遺跡調査を実施することが義務として課せられています。法律により、明確にその手法・プロトコルが示されています。

 

“Projects will provide us with more opportunities to excavate,” Cui said. “We don’t have the people or the money to conduct comprehensive archaeological surveys of all Chinese waters. However, new projects will now trigger excavations, which they must pay for, a cost that is trivial compared to the investment for infrastructure.”

 

開発により遺跡を発掘調査する機会が格段と増えるでしょう。これまで、それらの遺跡調査を中国すべての海域で実施するのに必要な資金はあるませんでした。しかし、新たな取組により、開発の原因者が調査費用を負担することになります。遺跡発掘の費用は、海の開発事業費全体の中で見れば、ごく僅かでしかありません。

 

Archaeologists are not the only ones responsible for underwater heritage protection. The law notes that, “All individuals and organizations have an obligation to protect underwater relics in accordance with law.”

 

そして、コチラも重要。

水中遺跡を守る役割を担うのは、考古学者だけではありません。法に従い、すべての個人や団体は、水中文化遺産を適切に守る義務があります。

 

it should also help inject the need to protect underwater relics into public consciousness, referring to a series of clauses focused on the exhibition and use of artifacts.

 

だいぶ意訳しますが…

水中文化遺産は、公共のモノであり、その調査と保護に対する活動は積極的に推奨されるべきである。広く水中遺跡を知ってもらうための活用や博物館などで遺物の利用を推奨しています。

 

ポイントまとめ

 1.海で発見した遺物の報告義務

 2.海の開発前の調査の義務と原因者負担

 3.水中文化遺産を守るのは国民の役割、そのための活用事業の推奨

   ではないでしょうか?

 

中国の新しい取り組み…。水中遺跡を国民全体で守っていこう!という意気込みが伝わりますね。研究の積み重ね、人材育成の結果がもたらした到達点かと思います。

 

 

3.おしらせ

 

さて、現在、当ブログの管理人、クラウドファンディングを実施中です。

丹後の高校生が水中考古学に目覚め、「自分で遺跡を探す!」とプロジェクトを開始しました。クラウドファンディングは、期間内に目標額を達成しないとお金がもらえないシステムです。多くの支援者が必要となります。

 

 

4月30日までですので、SNSなどでの拡散、知人へお知らせください。以前、記事を書いていますので、ご覧ください。彼女がなぜ水中考古学に目覚めたのか…。その出会いから、プロジェクト発足に至るまでの道のり、調査内容などなど詳しくは、ブログ記事・クラファンのサイトでお読みください。

 

【高校生の挑戦】丹後の海で水中遺跡を見つけたい

彼女のふるさと、丹後には、水中遺跡発見のポテンシャルが詰まっています!ぜひ、ご支援をお願いしたいのですが、ご支援よりも、SNSによる拡散、口コミなど、なんでも良いので協力いただければ幸いです。

高校生の夢、一緒に追ってみませんか?

そして、講演会のお知らせ!

特別企画!! 第2回 うみラボOnline講演会 水中遺跡に係わる法律をみんなで考えよう!

日時:4月14日(木) 19:30~21:00 

オンライン開催 参加費無料(カンパ・クラファン支援歓迎!)~事前登録必要

クラウドファンディング

 

今回は、外部講師をお招きしてのイベントとなります。

「水中遺跡に関係する日本の法律についてー条約との関係は?」

講師:中田達也 神戸大学大学院  海事科学研究科附属国際海事センター  准教授

詳しくは、うみラボのサイトで。

この講演会を企画した趣旨ですが、やはり、

文化庁の『水中遺跡ハンドブック』の内容を理解してもらうことが、これからの日本の水中遺跡保護にとって良いことですが、法律に関しては、正直わかりにくいところもあります。そこで、法律の専門の先生に解説をしてもらおう!というところです。たまたま中国も体制をかえてきたので、この比較なども出来れば面白いと思っています。

   ぜひ、ご参加ください! 参加は無料ですが、クラウドファンディングへの支援を推奨しています!

宜しくお願いもうしあげます!

高校生の夢を、一緒にかなえましょう!

 

 

引用元:http://www.gov.cn/zhengce/content/2022-02/28/content_5676054.htm?fbclid=IwAR1dR2rQAM50QRr-1AKPvkAePUkLV9eE4isKvXslnenczIo6ScsBaO8gBPc

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