現在の研究の関心について

水中考古学という言葉を聞いてまず連想されるのは、水中での発掘調査でしょうか。船舶・海事考古学のプログラムを組む大学では、毎年フィールドスクールを実施して水中での考古学調査の経験を積むことが重視されています。ここでは調査とは別に、海事考古学においては、どのような研究がテーマとなりえるのかということについて、若干お話ししたいと思います。

私が修士論文で研究したテーマは、沈没船遺跡の分布がある一定の空間において、何らかの条件とともに規則性や関連性を見いだせるのかというものでした。地理情報システム(GIS)を使った研究で、Predictive ModellingやRisk Assessment Modellingというものに近いアプローチを行いました。もう少し具体的には沈没船の分布が水深、港湾施設や灯台の位置、物資の集積地など自然的・文化的要因との因果関係にあるかという点に焦点を当てました。この研究の背景において重要なのは、沈没船遺跡を一つの単体の遺跡みるのではなく、複数の沈没船遺跡を集合的な遺跡として考えるということがあります。考古学は時間軸(temporal)と空間軸(spatial)を考えることによって遺物や遺跡の実態や意味を捉える学問です。空間軸においては、極小的な空間から極大的な空間まで、様々なレベルの空間の視点を設定することが可能です。沈没船遺跡では、例えば一隻の沈没船の遺跡から読み取れる情報、船員の船上活動によって残された遺物から当時の生活を探るといった研究や一隻の沈没船がどのように現況のような遺跡になったのか遺跡形成(Site Formation Processes)を探る研究などは極小的な視点の研究かもしれません。一方で沈没船遺跡は極大的な視点から研究される必要もあります。特に沈没船から発見される遺物などは、個人所有物や交易品も含めて、その起源や由来が当然の関心となります。すなわち生産地や積載地、あるいは将来的に消費されることになる場所、潜在的消費地なども研究の対象になります。沈没船遺跡が単に点として解釈されるのではなく、他の海事関連施設や陸上の遺跡と結ばれる線として空間のなかで解釈されることになります。極大的な空間では、沈没船遺跡や港などの海事関連施設遺跡を、海事文化景観(Maritime Cultural Landscape)として包括的に解釈することが重要になります。私の現在の研究テーマは中世東アジアの航洋船がなぜ隔壁構造を採用したのかということを問題にしています。船の解釈を十分に行ったうえで、将来的にはアジアの沈没船遺跡が海事関連施設と空間的にどのような関連を見せるのかということを含めて研究を進めてみたいと考えています。海事考古学とは、過去の海事空間の復元というテーマを研究する学問です。

引用元:http://ehlt.flinders.edu.au/archaeology/postgrad_programs/coursework/maritime/

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