水中考古学者は必要か?

今の日本で、水中遺跡を調査するのに水中考古学者は必要か?

答えは、ノーだと思います。必要ありません…なぜでしょう?

 

そもそも、水中であろうが陸であろうが、考古学は同じです。全く同じモノを扱います。「水中」という言葉を使うと、何か特殊で専門的に感じられてしまいます。そのため、敬遠されがちになってしまいます。しかし、陸の遺跡と考え方は何も変わりません。誤解が多いのも事実です。

誤解で一番多いのは、遺跡数が少ないこと。

しかし、実は水中遺跡は、どこにでもあります。例えば、デンマークの海岸線は7,000kmありますが、数千遺跡確認されており、また、遺跡の可能性のあるポイント(不自然な地形・海揚がり品が発見されている)は登録されており、数万件あるそうです。スコットランドも万単位で水中遺跡がありますね。記事確認 スコットランドの水中遺跡

ものすごく適当な計算で、海岸線1kmに対して1~2遺跡かそれ以上あってもおかしくないのですが、日本の海岸線3万キロに対して遺跡数は現在のところ500ほど(周知の遺跡はもっと少ないです)。3万遺跡は欲しいですね…残念ながら、日本では他国のように海の上の開発に対して考古学調査を実施する取り組みがほとんど行われなかったために、大部分がすでに破壊されています。そのため、水中遺跡が少ないという認識が生まれてしまっています。

さて、これを踏まえて、最初の質問に戻ります。水中考古学者は必要か?

 

水中遺跡の調査や発掘、そして保存処理、遺跡の分析などには様々なスペシャリストが関わります。遺跡を探すには海洋学者などと協力します。発掘も潜水士や水中作業に慣れた人たちと一緒に作業をします。また、一度遺物・遺跡を引き上げると、それからは普通の考古学と一緒ですね。出土遺物の分析は水中で行う必要ないですからね。さらに、考古学のプロセス全体(情報収集、アセスメント、探査、調整・発掘、保存処理、分析、出版、展示・アーカイブなど)からすると、発掘というプロセスにかける時間と費用は、全体の数%でしかありません。水中遺跡も、陸上の遺跡と同じように現状保存(水中にそのまま残す)を基本とします。開発などで破壊を免れないと判断したときに、原因者負担で発掘をします。そのため、遺跡を発掘すること自体、珍しいのです。

水中遺跡は開発に対応したアセスメントや偶然の発見がほとんどです。一部の富豪などがスポンサーとなって発見する以外は、水中考古学者が何の手掛かりもなく遺跡を発見する確率は低いです。陸の遺跡がそうであるように、世界の9割以上の水中遺跡は、民間・一般市民・開発対応によって発見されています。ダイバー、漁業、釣り人、開発業者、浜辺の散歩好きな人、などなど。

いろいろ考えると、結局、水中考古学者以外の人のほうが水中遺跡の保全には必要不可欠なのです。しかし、水中遺跡は特殊だから私には関係ない、私は専門外だから...と目をそらしてしまうと、どんどん遺跡が破壊されていきます。

そこで、まとめ。

水中遺跡にかかわりを持つ人、考古学者じゃなくても、とにかく周知していく必要がある。自分の手で保護していく責任感が大切。「水中考古学者に任せておけば安心」は危険日本の周りの水中遺跡は、今、破壊が進んでいます。それを止めるのは、水中考古学者ではなく、市民一人一人が、どう対応するかによって変わります。

補足...

オランダをはじめヨーロッパ、そして、カリブ諸国などでは、水中遺跡の保護は民間からの呼びかけで始まっています。ダイバーや海に接する人たちが海の遺産に気づき、考古学者に伝えました。しかし、最初は、なかなか考古学者達は動こうとしなかったそうです。

遺跡の保護は立地条件によって差別されるべきではないでしょう。たまたま現在の海抜0mを基準とするのは不思議なことです。例えば、「あ」がつく県の遺跡を無視しているようなものだと私は考えています。どちらも現在の立地による区分・差別です。

埋め立て地、護岸工事、そして、これから進むであろう洋上風力発電などによる海洋開発...これらの海域では考古学調査をせずに遺跡を破壊しています。その面積の合計は、「あ」がつく県の面積よりも広いか狭いか…どうでしょう?日本の埋め立て地の総面積は、土砂の浚渫も含めると、香川県位の広さになるのでしょうか...洋上風力発電も数千ヘクタールは使いますので、これは実は深刻な問題です。

以上、だらだらと書いてしまい、申し訳ありません。水中に存在する文化遺産を守る仕事は、一部の考古学者や歴史学者にゆだねるのではなく、海から恩恵を受けている人みんなの責任だと考えています。

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