寛永通宝の保存処理

C県のとある海岸で見つけてしまった寛永通宝...これは多分船に詰まれていたもの(もしくは個人の持ち物だったのか?)が海岸に打ち上げられたのでしょう。保存状況は完全に錆び付いて緑色。小さな砂なども取り込まれ保存状態は良くありません。

今回は実験的にこの古銭に保存処理を施してみました。電解還元法(ER)を使用しました。この方法は、遺物に微電流を流し、水素を発生させ、遺物の中に溶け込んだ塩化化合物と水素を結合させて取り除く方法です。

保存処理そのものの説明は以前の金属の保存処理でしてあるのであまり細かくは説明をしてありません。それよりもこの保存処理方法のメリットなどについてケース・スタディとして解説しています。

ERに必要なものは電解液を入れるプラスチック容器、容器のサイズにあったスチール網2枚、電気クリップ2つ、コード、直流供給装置、NaOH(約3-5%)、そして何でもいいが電解液に溶け込んだ塩化化合物の量を調べる装置(溶液、ビーカーなど)である。

セットアップに要した時間は2-3分ほど。プラスチック容器のそこにスチールを敷き、その上に遺物をのせる。マイナス電流をつなぎ、3%のNaOHを注ぐ。そして上にプラスの電極をつないだスチール網をつける。そして電源をON!大体1-2Amp,3-5Vほどの電流を流し、遺物から泡が発生しだすのを確認したらあとはひたすら待つだけ。写真はセットアップの様子。

1時間ぐらいしたらひっく返してみたりきちんと装置が働いているか確認してみた。2-3時間で見違えるほど綺麗になった。

ERの基本は遺物の内側から水素を発生させる。水素は塩化化合物と結合しやすいため、そのままプラスの電極へ引かれていく。遺物の内側から水素の泡が発生する際に遺物の表面についていた砂の粒などを除去してくれる。これは人間の手で物理的に除去するよりも遺物に全く傷をつけることがない。また、もちろん人件費もかからない。

しかしこの状態では保存処理はまだ終わっていない。遺物の内側にはまだまだ化合物が溶け込んでいるまま。このまま空気中においておくとどんどん錆が進行してしまう。化合物がある限り再処理に再処理を加える必要がある。そのため、1回の処理で完全に「処理」するのが望ましい。

2-3日後に電解液に溶け込んだ濃度を計ってみる。そしてまた1週間後。毎週計ることによりどれだけ化合物が溶け出したか分かる。これをグラフにして1週間ほとんど溶け出さなくなったら保存処理が完了したことになる。

だいたいこのサイズの遺物だと2ヶ月ほどかかる。長く思うかも知れないが、人件費は最初のセットアップと毎週のチェックのみなので一度にたくさんの遺物を処理することができるし、別の保存処理と平行して行うことができる。セットアップのダイアグラムは一度の複数の遺物を処理している様子。

沈没船、特に東アジアではこのような古銭の保存処理は合理的、経済的な方法をとるべきだと考える。新安沈没船の見るように大量の古銭を積んだ沈没船が発見されたとき、古銭一つ一つにどれだけの時間を与えられるか、また費用も考えなくてはならない。

海洋考古学、沈没船の保存処理で重要なのは時間の節約と合理性を極めなければならないことにある。沈没船ひとつから時として何万、何百万件の遺物が出土する可能性もある。ER法はこの点において利点があると考えられる。特に最初のセットアップさえできれば後はほとんど何もする必要がない。さらには遺物を全く傷つけることもなく、一度の処理で完全に化合物を除去できる。また、遺物に熱をそれほど加えるわけでもなく、また変色も少ない。沈没船から発見された古銭の保存処理にはER法を賞賛する。

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