アムステルダムに新たな博物館建設の計画

いつになったらニュースで報道されるのか、注視していた内容です。今回、広く皆様にお知らせすることとなりました。

 

詳しくはこちらのニュースで…

 

更に詳しくく知りたい人は、こちらから

プロジェクトのホームページです。

 

1749年、一隻の船がイギリス・へースティングス沖で座礁します。全長40mのこの船は、アムステルダム号、オランダ東インド会社(VOC)の船でした。幸い、乗組員全員無事。この船には、ヨーロッパ中から集められた様々なぶっしが積まれ、アジアへ向かう途中でした。

 

岸に近いこともあり、遺跡の所在は地元に知られ、度々考古学調査が実施されてきました。当時の貿易の様子を知ることが出来る貴重な遺跡として知られています。この遺跡、大潮の時にだけ一瞬姿を現しますが、それ以外はずっと水面下

 

そんな遺跡ですが、この船を丸ごと引き揚げてアムステルダム(都市)に持ち帰り、新しい博物館でそのまま展示する計画があります。発掘作業をその博物館内で行う予定だそうです…観光の目玉にする計画もあるとか…。

40mを超える沈没船を引き揚げて博物館内で発掘する…ちょっと現実離れしている話に聞こえますが、実は、中国でも同じような試みが行われています。南宋時代の沈没船、南海1号が、引き揚げられ、博物館内にそのまま運び込んで発掘作業を行っています。

中国の場合は、保存処理を実施しながら乾燥させて、陸の発掘と同じように実施しています。アムステルダム号は、水につけたままま発掘と公開を行なうそうです。

 

newsはこちら

博物館ウェブサイト

この計画について、私が書いた(共著ですが)「日本と海外における水中遺跡保護の取組みの現状」考古学研究66(3)、の中でサラッと軽く触れています。注意深く読まないと見落としてしまうかもしれません。昨年パリで行われたユネスコ水中文化遺産保護条約締約国会議でアムステルダム号の引き揚げについて発表があり、かなり話題となっていました。

というのも、遺跡の現地保存は、水中遺跡保存の原則と考えられています。

考古学・行政の発掘調査についてある程度の知識を持っている人であれば、現地保存が意味していることを理解しているでしょう。遺跡を守るために最良の方法は、「掘らないこと」です。掘ることは破壊行為なので、掘らずに現地にそのまま残す。これが遺跡を守ることにつながります。

 

特に、保存処理に莫大なお金が掛かる、水中にあれば開発が及ばない、というイメージの水中遺跡(実際・現実はちょっと違いますが…)にとって、現地保存はポリシーのように言われています。ユネスコ水中文化遺産保護条約に反対する研究者も未だに多くいますが、

その多くは、「批准したら遺跡の発掘が出来なくなる!研究の足かせ」と感じています。

 

このアムステルダム号の引き揚げ計画、南海1号引き揚げは、ユネスコ条約の理念に反している!と見えます。

 

実際に、多くの研究者が、南海1号の調査に疑問を持っています。また、アムステルダム号の引き揚げ計画についての発表があった時も、場内・場外で活発な議論・話題となっていたのを覚えています。

 

しかし、意外や意外…ユネスコ事務局は、南海1号やアムステルダム号の引き揚げについて、かなり肯定的な意見を表明。というのも、現地保存は、水中遺跡の保存で「最初に考えるべきオプション」とユネスコは定義しています。つまり、「原則」でも「取るべきオプション」でもないのです。現地保存ができない場合も多くあり、その場合は、発掘して積極的に活用することがベストであると。

 

遺跡の現地保存の様子。埋め戻して、さらに遺跡を守るカバーがかけられている。

 

ユネスコ条約で最も頻繁に登場する言葉は、「Public」、つまり公共のために遺跡を利用すること…。日本の文化財行政風に言えば、「活用」が最も重要なようです。遺跡を現地で保護し活用する。それが可能でなければ、積極的に公共の目的のために利用するべきである。現地保存を試みて、逆に遺跡が劣化・破壊されてしまえば、何も意味がないと…

 

南海1号は、盗掘の危険性や海域が有機物の保存に相応しくなかったため、「現地保存はできない」という判断があったようです。そのため、丸ごと引き揚げて活用した良い例となります。

そして、アムステルダム号。 上にも書きましたが、1か月一度、干潮の時に水面にかを出します。周期的ですが、空気に触れてしまう遺跡です。このような環境において、遺跡・有機物の劣化がどんどん進行しています。完全に水中に埋もれていれば数千年でも有機物は腐らずにのこるのですが…。このように時々乾燥してしまうと、遺跡が消滅するのも時間の問題です。

研究者が様々なモニタリングやテストを行ったところ、放置しておけば遺跡が消滅してしまう、という結果が出たそうです。つまり、遺跡の消滅を防ぐための引き上げと考えています。

 

さて、なかなか反対する意見も根強いと聞きます。何か別の方法で現地に保存する方法はないのか…現地で遺跡を囲って保存する方法はないのか、などなど、議論されているようです。そもそも、イギリスにある40mを超える遺跡を丸ごとオランダまで運んでくる計画。どれだけお金が掛かるのでしょうか?

昨年度、プロジェクト担当者と話したところ、皆が想像しているほどお金はかからない計算だ…と言ってました。

さあ、今後どうなるんでしょう?オランダを代表するプロジェクトになるか?博物館で水中発掘を見れる日が来るのか?

引用元:https://www.designboom.com/architecture/zja-1749-shipwreck-underwater-museum-amsterdam-11-27-2020/

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